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【KAKERUインタビュー No.22】
知人からの紹介で行ったchikuchikuワークショップ。雑巾すらまともに縫えない私ですが、小さなお箸袋を作るために数時間格闘した結果、できましたできました♪なんともあたたかくて、かわいらしいコブクロが。こんなに小さな袋でもたくさんの工程を経て、形になるものなんです。そして、この袋に入れる『おくるみ箸』は、これまた感動的なつくりになっています!このワークショップを主宰されたのは今回ご紹介する深津高子さん。講師は、永年テキスタイルデザインに関わってきた深津さんのお姉さま・深津テリーさんでした。深津高子さんは、楽しく自由に環境に配慮した生き方を提案するブログ「エコラージュ工房」で環境に配慮した『おくるみ箸』やライフワークである『モンテッソーリ教育』の研修会を紹介されています。「子どもの自立を促す育て方」を理念とするモンテッソーリ教育の第一人者でもあり、自宅のある府中市でパートナーの吉岡さんは『カフェスロー』を営まれています。たくさんの素晴らしい想いを形にされている深津さんにお話をうかがってみました。
深津高子【Takako Fukatsu】 国際モンテッソーリ協会理事・保育環境アドバイザー

国際モンテッソーリ協会 AMI http://www.montessori-ami.org/
カフェスローhttp://cafeslow.com エコラージュ工房 http://ecollage.info/

大阪生まれ。父親の仕事のため10代の思春期から20代にかけてNYに住む。ハイスクールの3年間、英語の授業がまったくわからず、その反動で絵やアニメーションなどに興味が傾倒し、視覚によるコミュニケーションやシンボルマークに関心をもつようになる。その結果、専門はグラフィックデザインとなり、帰国後デザイナーとして仕事を始めたが、人体に害を与えるような食品や粉ジュースのパッケージデザインを大手企業から疑問なく請け負い、売れればよいというデザイン下請け子会社の消費者への無責任な姿勢に怒りと疑念を抱き、辞めてから語学学校の教師となる。日本語を外国人に教えていた学校で、インドシナ難民キャンプでの日本語教師募集を見て応募する。1981年東南アジアに渡り、3ヶ月滞在の予定が3年間を過ごし、紛争回避の方法を模索中に「平和は子どもから始まる」という言葉に出会う。帰国後は、日本でモンテッソーリ教師の国際資格を取得し、現在も真の子どもの代弁者・通訳者になるべく努力をしている。
パートナーは、カフェスローの代表・吉岡淳さん。。

 
深津さんはアメリカにお住まいの時期が長かったのでしょうか。英語もかなりお上手ですよね。
 
父の仕事の都合で高校時代から大学にかけてのまさに思春期をNYで過ごしました。言葉がまったく通じず、授業も宿題も試験もわからなかった。当時、NYの公立校にはアドバイザー(カウンセラーのような役目の人)が生徒一人ひとりに付いていたんです。言葉で伝えられないのなら、絵や演劇の授業を取りなさいと助言されて、シェークスピアのクラス、3分間のスピーチ、アニメーション、グラフィックデザイン、ミュージカルの大道具づくり……あらゆる自己表現の術を得て、自分の存在をアピールすることができました。中でも、視覚伝達でのコミュニケーション、ビジュアルデザインが好きでした。
 
語学を堪能に話される今の姿からは、ちょっと想像がつきませんが、アドバイザーの先生と出会いによって好きなことが見出せたのはラッキーでしたね。その後のお仕事にもいかされました?
 

アメリカの大学に在学中、再び日本へ戻ることになりました。とても人気のあった粉末ジュースのパッケージデザインをしました。身体に良くない添加物が入っていても「売れればいい」的な発想で人が不健康になる物を販売促進することに嫌悪感を覚え1年ほどで辞め、再び一人でアメリカに戻り、大学卒業後、再び日本でグリーティングカードの仕事に就きました。
実は、私は海外での暮らしの中で、日本からの手紙やハガキに何回も救われた経験があり、これを職業にしようと思ったわけです。
その頃、日本ではグリーティングカードの存在がまだ浸透していなかった。ホールマークジャパンの社長に当時、自分のハガキやグリーティングカードをつくる想いを綴ったお手紙を送ったんですね。それが何と、キティちゃんやキキ&ララ、いちご新聞などで飛ぶ鳥落とす勢いの『サンリオ』でした。お手紙がきっかけとなって、サンリオに就職し、暑中お見舞い、年賀状、父の日……あらゆる行事のグリーティングカードを企画・制作する部署でデザインを担当しました。
それが約2年足らずでしたが、そのうち「商品を売る時の根底にあるヒットするものを伸ばす」という企業の姿勢が、辛くなってきた。たぶん自分の中に、純粋なアートを欲する心がどこかにあったのでしょうね。

 
それからモンテッソーリ教育に出会うまで、いくつか道を経ていらっしゃったわけですね。
 

当時、語学を武器に仕事をしようと、昼は英語、夜は日本語を学校で教えていました。でも、そこでも一流建設会社のビジネスマン相手に英語を教えても、その英語を使って何をするかと聞くと、会社の海外派遣で、木を切り出してダム建設の仕事に就くと言われたり……。私は英語を使って何をしたいのだろう?というのが見えずに苦しかった。自分の仕事が、間接的に環境破壊の助けになっているのではと悩みました。そこで生きるために語学が必要な人が他にいるのではないか?と思うようになりました。

 
それが「難民キャンプ」での日本語教師だったのですね?
 

はい、そうです。ベトナム、ラオス、カンボジアなど共産化したインドシナ三国にいられなくなっった人々が国を捨てて着の身着のままで隣国タイにでてきました。タイ側には多くの難民キャンプがあちこちにできていた。ラオスからの難民を収容するノンカイというキャンプで日本語を教える仕事に就きました。
ここでの難民たちはスイスやオーストラリア、日本など各国で定住できるように教育されます。でも、毎日毎日、人々はメコン河を渡ってキャンプ場に命からがらたどり着きます。難民を出さないために貢献したくても、それができないもどかしさがありました。当時は生きるためのノウハウを教え自立させることまで、できずにいたんですね。とにかく今日を生きるために物資を与えることだけで手一杯な状況でした。

 
深津さんがモンテッソーリ教育を理念とされる、今のお仕事をされるきっかけとなったことを教えてください。
 

難民キャンプでは将来が見えない。そうなると大人達は子孫を残そうという本能が働くようで、有刺鉄線の中で生まれた子どもがたくさんいました。その中にカンボジア国境のキャンプに「希望の家」という保育園がありました。そこにモンテッソーリ教具が置いてあったのです。
私は、そこの代表にこれまでキャンプで経験してきたことを踏まえてずっと気になっていた質問をぶつけました。どうすれば、難民を出さない援助ができるのかと。すると、「深津さん、平和は子どもから始まります」と言われたのです。その時は、正直いって意味がわからなかった。平和って大人が築き上げるものでしょう?という気持ちが強かったのです。それでも、どこかにその言葉が真実を語っているように思って、ずっと残っていました。

 
カンボジアの子ども達がいる難民キャンプの保育園は、どんな過ごし方をされていたのですか。
 

物資が不足していますから、キャンプで調達した素材で遊具や教具が作られていました。例えば、バンブーの中に木の実を入れていくつか用意します。同じ音のするものを探す「マッチング」の遊びは感覚教具と呼ばれるものですが、いってみれば子どもの聴覚を洗練させる教育です。戦争をしないということと、人の感覚を鋭敏にするということはつながっているのではと気付いたのです。

 
それがきっかけとなってモンテッソーリ教育を勉強されに再び日本へ戻られたのですね。
 

1984年に3年いたタイを後に、日本へ帰国しました。モンテッソーリの国際資格が得られる教師養成学校があるのですが、猛烈に勉強し始めました。免許があれば、世界共通なのでどの国でもモンテッソーリの教具を扱うことはできますが、根本的にはそれぞれの文化に配慮した教育法です。こうして考えてみると、私が今までやってきた仕事は、この仕事をするためのすべてが準備だったように思えます。

 
モンテッソーリ教育の理念というのは、具体的にどんなことでしょう。
 

大きくわけて4つあり、まずひとつは、日常生活の練習といいます。つまり私たち大人が普段、家でやっている掃除、洗濯、料理など家事といってもよいでしょう。これを通して、子ども達はその地域の、その文化の一員になっていきます。つまり日本でやる掃除の仕方を知り、それを継承していくことになります。しかし子どもって大人と同じような速さの動作ができません。大人がスローダウンして見せることが大切。お手伝いや家事をやりたい興味のある時期に紹介することも大事。落としたら割れる小さな本物を使わせることも必要です。また道具(例えば帚)は、その文化で使われているものを紹介します。子どもは、代わりにやって欲しいのではなく、やり方を見せてほしいのに大人が気付かないことが多いのです。

二つ目に、感覚教育です。人間の持つ聴覚・視覚・味覚・嗅覚・触覚の五感を使って活動する教具です。最初は、これとこれは同じ味、音、重さなどというマッチング、次に漸次性(もう少し甘い、もう少し軽い、もう少し大きいなど)を体験し、子どもの感覚的な識別能力を洗練していきます。

三つ目に、言語教育があります。まず人が話すのを聞かせるということ、つまり一対一の語りかけです。未だ話せない乳児にも、今から何をするか伝えることが大切です。例えば、(赤ちゃんの)おむつを換える時でさえ、黙って換えないで「これからおむつかえるよ。気持ちよくなりますよ〜」と語ってあげることは、子どもが将来自分から話すときの土台になり大切です。このように言語プログラムには、話し言葉、書き言葉、読み言葉があり、機能に応じて楽しい教材が用意してあります。

四つ目に、数教育。差異を比べて数値化していくのが4〜5歳期。最初は手で触れる具体物を使いますが、どんどん進むと抽象的になり暗算をする子どもたちもいますが、それは結果的にやりたいことをピッタリの時期にやらせたからで、早期教育や英才教育ではありません。その子の知りたい前でも後でもなく、知識欲が一番高いピーク時に合わせたタイムリーな教育です。

このような4つの領域が基本ですが、モンテソーリ教育は、どの子どもも普遍的に持つ強烈な対象への関心が起こる「敏感期」を見逃さないで、それを尊重した環境を与えるのです。日本の教育システムは子どもの知りたいという力を過小評価し過ぎだし、知りたい対象を適時に与えていないと感じています。

 
深津さんの活動は多岐に渡りますが、パートナーの吉岡さん代表の「カフェスロー」やモンテッソーリ教育を理念とされる保育環境アドバイザーの仕事で一環したマインドは、どんなことですか。
 

ひとつには「地域から世界へ」と考えています。私が府中の幼稚園で先生をしていたのも、子どもが変わる→保護者が変わる→地域が変わる→町→という風に、自分の足元から変革をもたらすことが大切だと思っています。
彼も6年前にカフェを府中にオープンしました。それまでは、家のある場所は寝に帰ってくるだけでした。でも、カフェスローの母体であるナマケモノ倶楽部が『人が出会う拠点としてカフェをつくろう』と考えたとき、やはり如何にフェアトレードやエコロジーの考え方を、地域に発信していくかが問われました。小さなこと、ささやかなこと、丁寧にできることから始めたいですね。そして常に自分にとって不快より、気持ちの良い方向「快」へ向かって、たどり着いたのが今なのです。

 
「快」であり続けるにもエネルギーが必要だと思います。ところで今年はモンテッソーリ100年祭とお聞きしました。深津さん的に何かビジョンはおありですか。
 

マリア・モンテッソーリ(1870〜1952)は、人生の最初の6年間は、取り返しのつかない大切な人格形成の時期で、この時間をどう過ごすかによって、将来の大人が変わってくるといっています。
つまりその子が小さいときどんな大人に出会ったか、例えばカンボジアのように憎しみあって傷つけ合う大人に出会ったのか、それとも仲の良い協力しあう国に生まれたのか、話をじっくり聞いてもらったのか、逆に信じてもらえなかったのか、など全ての結果が将来の大人社会に鏡のように反映していきます。
ですから子どもから平和も戦争も始まるのです。しなければならないことがたくさんあります。例えば親に代わって長時間、生命の世話をするという大切な任務がある保育士、幼稚園の先生の社会的待遇や地位向上も努めたいです。また保育所を街の中心の一番いいロケーションにして、地域から始まる平和運動の拠点としての保育園つくりもやりたいですね。

 
今日はどうもありがとうございました。
たくさんの国で色々な経験をされてきた深津高子さん。これまでの人生を語ってくださる内容はとても楽しくて、ひきこまれました。子どもの保育環境を考えるお立場ですが、園という枠内に留まらず国の行く末、世界の環境や平和を見つめている姿勢は素晴らしく、感銘を受けました。そして、何よりも「地域から世界へ」の精神。そうそう、寝に帰るだけの我が家じゃいけませんよね。今、私は自宅のある地域で小さなプロジェクトを暖め中なので、とても勇気づけられた一言でした。カフェスローも素晴らしいお店です。全国各地に似たコンセプトのお店が増殖中。大手の外食メーカーのようなフランチャイズ展開ではなく、ゆるやかに個々がつながってゆく関係は素敵です!これからますます楽しみです。

 

深津さんのパートナー・吉岡さんが経営される「カフェスロー」は、たくさんの子連れ家族をはじめ、一人でふらりと立ち寄っても、居心地のいいスペース。

オーガニックなこだわりメニューも素晴らしい。

chikuchikuワークショップは、お裁縫の苦手な私でも夢中になれました。

何事も形になるまで一つひとつの工程が大切なことを実感。

インドシナ3国

最低限の生活物資が配布される

「保育所を卒園した子ども達は7833人」現在はもう難民キャンプ はタイ国には存在せず、この保育所も子ども達もいない。現在彼らは30代となっ て、世界中の国に散らばり定住し第2の人生を歩んでいることでしょう。

 

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