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【KAKERUインタビュー No.31】
新宿のどまんなかで一日140食がたちまち完売するお弁当屋さん「さらぼん弁当」のオーナー兼シェフの牧野美保さん。安定した収入の公的機関に長くお勤め後、一念発起して昨春「さらぼん弁当」を起業。てづくりのノボリを掲げ、ワゴン車でお弁当を販売しています。「500円で食べられる、おいしくて体によさそうなお弁当」というスペック的なことだけでなく、「雨の日も風の日も、同じ時間同じ場所で、声を掛けてくれる安心感」という心の交流を、人は求めているのかもしれません。マザールもこれから食事業をスタートしたいと考えていますが、今回のインタビューで、たくさんの素敵な想いに触れることができました。三人のお子さんを育てながら、好きな仕事にまい進される同世代の牧野さんにお話をうかがってみました。
牧野美保・キッチンさらぼん 佐藤久馬商店オーナー 牧野美保【Miho Makino】 
キッチンさらぼん オーナー

1966年生まれ、福島県出身。公的機関に20年ほど勤務し、2006年4月に手づくり弁当「キッチンさらぼん」を開業。新宿中央公園北口広場前に車をつけ、ランチ弁当を販売。家庭的なおいしいお惣菜の弁当がワンコインで食べられると口コミが広まり、11時半頃から長蛇の列をなし、1時間もたたないうちに140食を完売する日々。電話予約をすればお取り置きもしてくれるそう。お問い合わせは、080-1056-6095   

家族は、夫、長女(中2)、次女(小6)、長男(年長)。

 
公的機関をお辞めになって、起業されたそうですが、なぜお弁当屋さんに転身を?この時代に安定収入を捨ててまで…という気がしますが、何がきっかけになったのですか。
 

19歳で就職して39歳まで公的機関で20年間働いてきました。夫も同じ職業で共稼ぎ。夫婦で働いていれば、そこそこ安定した人生が送れると思いましたが、組織で働いていると限界があることも感じていました。人を元気にしたいという発想で、何か仕事をしたいと思ったんですね。背中を丸めて歩く、暗い顔をしている人たちが多いので、おいしいご飯やあたたかなものを食べさせてあげたいと。「朝のコーヒースタンドをしたい」というのが最初のイメージでしたが、店舗を借りるのに不動産探しは大変なことで。お弁当ならすぐに始められるかなと思いまして。辞めてすぐに起業しました。

 
今日は何人もの常連さんに「ごめんなさい。今日は終わっちゃったの」とお詫びされていましたが、ものすごい人気弁当ですよね。
 
気づいたら毎日来てくれる人が増えていたんです。最初は1週間(月・火・木・金)と同じサイクルで献立を考えていましたが、1ヵ月くらいしてから「日替わり弁当」や、6〜9種類くらいのお惣菜が楽しめる「おまかせ弁当」を誕生させたり、メインの料理を肉と魚と2種類用意して、副菜を3種にしたり。色々と献立内容も工夫するようになりました。さらぼん弁当の基本は、家族につくるようなお弁当です。野菜が中心でメイン料理も量的に少ないですが、お米も会津若松から取り寄せている低農薬米を使っています。お魚は天然でおいしいものを仕入れていますし、お肉は牛肉専門店、しかも和牛しか使わない。野菜は新鮮な素材を。父母が福島で畑をやっていて、完全無農薬の野菜をたくさん送ってきてくれます。
 
献立内容がまたバラエティに富んでいてすごいですね。これを全部お一人で考えていらっしゃるわけですよね?どんな時間割で毎日過ごされているんでしょう?
 
1日15〜6時間働いています(笑)。朝は3時過ぎには起きて仕込みは3〜7時間くらい。お弁当を販売してから、自宅に戻って片付け作業もありますしね。翌日の仕込みも待っています。でも家事もこなしつつですが、満足感、達成感があります。土日は弁当販売しませんが、買い付けしたり献立考えたりと、まるまる一日休めることはありませんね。
献立は、同じ食材を使っても違う食感になるレシピを考えます。食いしん坊なので、いつも食べ物のことを考えていますから(笑)。
 
500円で、こんなおいしいお弁当が食べられるなんてお客さんの側にとってはうれしいことですが。余計な心配ですけれど、利益は出ていらっしゃるのでしょうか?
 
原価や経費を差し引くとほとんど儲かりませんよ(笑)。食べていくためだと、もう少し考えて売らないといけませんけれど。一番最初は10食作って、それでも完売するまでに3ヵ月掛かりました。毎日売り切ってから次の日は2食ずつ増やしていきました。140食完売するようになったのは今年の8月頃になってからのことです。ロスが出るのはイヤ、食べ物を捨てるのは心が痛みます。あと、車の渋滞で販売するタイミングが遅いと売れなくなってしまいます。
 
お米を炊くだけでも気が遠くなりそうです。毎日どのくらい炊いているのでしょう。
 
11.5升です。3升炊きを2回、2升炊きを2回、1升炊きを1.5回。10合=1升なので、相当な量ですね。ご飯を炊くのはそれほど手間ではないけれど、炊き上がったご飯に空気を入れることが一苦労。少しずつ移さないといけないので。
 
パッケージも環境配慮をされていますね。
 
牛乳パックと同じ素材です。たまたまカタログで知って取り寄せて、消しゴム判の判子を押印して使っています。容器は1個28〜9円しますし、中の惣菜仕切りも割高ですが、環境に配慮したものを使います。そういう点に気を使っていることも共感を得ているのかも。
 
さらぼんキッチンの将来的な目標は?
 
お弁当販売は続けたいですが、地元の世田谷区千歳烏山でお店を出したいです。お弁当を買いにきたお客さんに「この時間が一番好き」と言われるとうれしいものです。最初は堅い表情だった人が、毎日お弁当を続けて買いにきてくれるうちに笑顔になってくる。元気とか、美しさとか、キラキラした輝きみたいなのを私が皆さんからもらっている気がします。 
 
わかります!小さいことかもしれないけれど、そういうふうに生きている実感が得られる仕事をしたいですよね。お金は大事ですが、儲けるために雑なことをしたりズルクなると結局、続けられませんから。牧野さんのお育ちになったご家庭はやはりご商売をされていらしたのですか。
 
実は、祖父の代は福島でお店をやっていまして。乾物とか、学校指定の制服、体操服、上履き、生活雑貨などさまざまな商品を売っている街のお店でした。今で言うスーパーマーケットですね。お正月1月1日以外は営業していました。雪の深い福島県でしたから、自分の店が閉まると誰か困る人もいるだろうと。今でもよく覚えているのは、冬になると豆腐がよく売れまして。手間をかけずに、みそ汁に入れたり、湯豆腐にしたりできるじゃないですか。それで、雪がものすごく降っている中を、豆腐を仕入れにずっと雪道を歩いて行って、豆腐を背負って戻ってきてお店でお客さんに売っていました。たぶん80円で仕入れても100円で売っているくらいで、儲けといっても、1個20円くらいですよね。それでも、豆腐がほしいと待っている人のために、損得なしで働いていた祖父の背中を忘れられません。
 
なるほど。お金儲けのためだけじゃない、根っからの働き者のDNAが牧野さんは受け継いでいらっしゃるのですね。それでは、これから好きな仕事を始めたいという方へメッセージをお願いします。
 
月並みですが、Let's Try!です。やらないとわからないことが多いですから。
私は子ども三人の学校や園の役職も引き受けています(保育園では父母会、小学校ではPTA、中学校では広報委員)。これもまたやってみないとわからないことが多い。そして、やってみるからこそおもしろいことも多いものです。じっと考えているだけでなく、一歩前に踏み込んでみてください。

私がここまでやってこられたのは、自分だけの力ではなく、お弁当詰めの手伝いに来ていただいている近所の方々のおかげなんです。仕事面だけでなく、メンタルな部分でもとても助けていただいています。皆さんずっと家庭を守ってこられた"主婦"ですが、『この歳になって弁当屋をやるとは思っていなかったわ(笑)』と言いながら、いつも応援してくださっています。本当に、主婦の底力は絶大です。
 
ありがとうございました。

お話をしていて牧野さんが同世代だということに気づきビックリ。親元から早く自立されていたからでしょうか。浮ついたところがなく地に足をつけて働いていらっしゃることに感動を覚えました。起業というと華やかな仕事をイメージされる方も多いようですが、その実は何でも自分で考えて手づくりのアイデアからスタートし、軌道にのるまで忍の一字です。少しばかり儲かっても、一円も儲からなくても、自分の信念をもって続けることのできる、かけがえのない仕事をしていきたいものです。牧野さんの働く姿勢は、見習いたいところがたくさんありました。これから、マザールの食プロジェクトにもぜひアドバイスをしていただきたいです。お互い頑張っていきましょう!
 

野菜中心のお弁当。主彩はお肉とお魚があって、副菜は3種類ほど、お米もおいしいのに、これで500円は断然お特です!

ワゴン車のうしろにお手製の看板を掲げて営業スタート。左奥に見えるのが、牧野さんとお客さん。お弁当を買うだけでなく、ちょっと立ち話したくなるお弁当屋さんです

新宿中央公園北口の信号下に車を止めて営業しています。信号を2つほど渡ってきてくれる場所なので、わざわざお越しいただくお客様の職業もさまざま。お電話してくだされば、お取り置きもOK! 都会のオアシス的なお弁当です

牧野さんお手製の毎月の献立。同じ食材を使って、違う食感の惣菜を考えるのだそう。素晴らしいバリエーションです!

 

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