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【KAKERUインタビュー No.64】

ワンピースと聞くと、お洋服のワンピースをイメージしてしまいますが、ここで示すのは「1作品」という意味なのです。今回ご紹介する石鍋さんは、テレビ局の女性ディレクターの草分け的存在として働き、その間に妊娠・子育てを経て復職。子どもをもちながらフルタイムで働く女性がほとんどいない時代に、会社で働くお母さんのネットワークを作って改革したり、当時からとても行動的。テレビ局を退職後は伴侶をご病気で亡くされ、生きる希望を見失いそうになっていたところに、衝撃的なアートとの出会いがありました。それが今回ご紹介する「ワンピース倶楽部」という現代アートの文化、特に受け入れる土壌を深めていこうという団体を立ち上げることに。一年のうち300日は着物で生活をするという、主宰・石鍋博子さんにインタビューしました。

石鍋博子【Hiroko Ishinabe】ワンピース倶楽部代表 石鍋博子【Hiroko Ishinabe】
ワンピース倶楽部代表

1956年東京生まれ。小・中・高校時代まで岩手県、宮城県で過ごす。1980年慶應義塾大学法学部卒業。1980年から1999年までフジテレビにて番組制作、イベントのプロデュースに係る。1999年 (有)石鍋エンタープライズ設立し、コンサート等を手掛ける。2005年夏より現代アートに関心を持ち、 2007年7月「ワンピース倶楽部」設立。 家族は、長男(23歳)、長女(14歳)と義父母。
 
 
1980年にフジテレビ入社と伺っております。男女雇用均等法前にテレビ局入社ということで。当時はどんな選抜をされてその業界へ?
 

当時は大卒女子の就職先は商社か銀行が相場でした。私は実家が岩手県で、とにかく東京にしがみつきたくてマスコミも受けました。フジテレビのアナウンサーの応募条件には「日本語を正しく話せる方」と書いてあり、これなら私できるぞ!と(笑)。日テレのアナウンサー応募条件は「容姿端麗な方」でしたから、これは私ではダメだと。今の時代なら、ちょっと問題になりそうな条件ですよね?それで、アナウンサー試験は見事に落ちましたが、3年後から大卒女子を定期採用することが決まっていたので、現場スタッフを育成する試みで入社させてもらいました。4名大卒女子のうち、一人は7ヵ国語を操る人で国際部へ。もう一人は編成部へ。あとの2人、私ともう一人は制作部へ。

 
狭き門ですね。制作部ではどんな番組を担当されていらしたのですか。
 

アシスタントディレクターとして「スター千一夜」「ミュージックフェア」「ズバリあてましょう!」を担当しました。今のように外部の制作プロダクションへ丸投げはしなかったので、一つひとつ考えながら仕事ができて、とても勉強になりました。その時の仕事の姿勢がベースとなって、何かをするのに不可能なことはない、と捉えるようになりました。

 
ディレクターとして働きながら、お子さんも出産して育てられて。
 
制作部で7年間勤め、長男を出産してからは部署を異動しました。今、長男は23歳、長女は14歳です。1999年に退社しました。男子は功績を褒めて、女子は存在を褒めよ、と言います。息子が12歳頃に「どうせお母さんは…」というのが口癖になって、働き続ける限りそういう葛藤はあると思いますけれど。それでテレビ局を退社して、自分で何か始めようと。
 
私も毎度息子に言われますよ。「ママってさー、○×@¥**+だよね〜」と、どこぞの評論家のように突っ込みいれられます。プロレス技かけて、ごめんなさい言うまでとっちめますけど。
 

夫と私はヒストリカルカーラリーが共通の趣味で、退社後は2人でイタリアに2回渡って参加したり、国内でも何度も参戦しました。20キロを30分で走るとか、時間の正確さを競うタイムレース。100分の1秒単位で1600キロ走る。そこには複雑なルールが組み合わされているんです。ドライバーは夫、ナビゲートは私。このレースを通じて石鍋夫妻という単位になりました。2006年10月に夫が亡くなるまで続きました。

 
本題の「ワンピース倶楽部」のお話しになりますが、何がきっかけで現代アートに目覚められたのでしょう?
 

2005年8月に現代アートに魅せられたのが最初。2006年2月にスペインのマドリードで「アルコ」というアートフェアが開催され、行ってきました。それと同時に夫のガンも見つかり、あっという間に亡くなって。茫然自失になっている私に、長男が「お母さんがこんなつまらない人だとは思わなかった」と言われて。それがきっかけになって何か始めようと。

そんな時、ある絵に出会いました。そのたった1枚の絵を実際に購入して、アートの世界の面白さに気づきました。それは一人で楽しむにはもったいないくらいの魅力的な世界で。その世界をたくさんの人と共有したくて、「ワンピース倶楽部」を立ち上げました。アート作品を愛し所有し慈しむ楽しみを分かち合えればと思っています。

日本にはアートマーケットがない。アートにお金を払わない。日本のアーティストを見せる場がない。アートは世界で評価されて大きくなっていくもの。「ワンピース倶楽部」を2007年7月に立ち上げて、メンバーは覚悟金1万2千円を支払って、年に1点作品を購入することをルールとしています。超一流の美術に目を向けるアートマーケットを創出しよう。それでアートにウエーブをおこし、元気になろうと。

 
どんな作品が優れているかというのは、主観的に選ぶものなんでしょうか。何か基準のようなものがあるのでしょうか。
 

世界的なルールは現代アートの歴史を紐解かないとわからないことでしょう。ひとつの作品がうみだされた背景を知らないと評価できないものです。私は、1作品に価値観を与えるような動きはしたくないんです。好きな作家は公言できても、いい作家は公言できません。
「ワンピース倶楽部」で購入する作品はどこで買ってもいい。すべてプロが選んだ可能性を秘めた作品です。いまや売れっ子の奈良美智さんの代表作がかつて100万円でしたが、それも現在は何千万、何億円とするように。1点買うことで、アートに真剣になります。

 
時代に先駆けて、素晴らしいアートを高額な値で購入するのは、なかなか庶民には手が届かないようにも思います。私は息子が描く絵で素晴らしいと思うのはしまいこまずに額縁に入れて飾っておきますけれど。その程度の文化レベルです。
 

一人ひとりのアーティストとの出会いはとても楽しい。実は作品を通して、普遍的な話をしているんです。作品に込められた魂と同様に、誰か人と話すときにうまれる空気や波動も、アートだと思います。そういう意味では、誰もがアーティストになり得るのかも。

 
アートの勉強会を月に1回開催されていらっしゃるのだとか。
 

青山スパイラルの9階で月1回サロンを開催しています。「ワンピース倶楽部」会員の勉強会ですね。参加費は、会員1500円、ビジターは2000円。毎回さまざまなアートをテーマに、コンテンポラリーアートのギャラリーのオーナーと所属の作家を呼んでお話しを伺っています。

世界最高峰のバーゼル(スイス)の6月に5日間開催するアートフェアを筆頭に、毎年3月NY、5月香港、9月10月ロンドン、パリ、12月マイアミでは、世界中のアートの情報交換場となっています。世界各国からライターやキュレーター、ギャラリーの人が集まってアートの流行をつくっているんです。日本では4月にアートフェアを開催していますが、世界からお客様がこない。国内だけのお祭りになっているのが残念です。もっと世界中から日本で開催するアートフェアに参加してほしいですね。

 
ありがとうございました。
私も絵は大好きですが、世界を舞台にして1枚の作品を鑑賞したことがありませんでした。
でも考えてみれば海外からの作品は日本で目にしても、海外へ出て行く日本の作品はごくごくわずかに限られているのでしょう。自分がいいと思う作品を人に紹介する点は、マザールも深く共感します。これからも応援しています!
 

ワンピース倶楽部の活動は、1年に最低一枚現存するプロの作家の作品の購入すること。 勉強会を開催したり、美術館、ギャラリー等で多くの作品に接したりして審美眼を養うこと。 各年度終了時に各自の購入した作品を集めて展示会を開催することをルールにしています。

「ワンピース倶楽部」が現代アートを購入することのメリットとして、作品に対して、より真剣なアプローチができる。作家を応援し、その作家の成長を見守ることができる。資産としての価値が期待できるときもある。…以上3つを揚げている。

アートバーゼルのディレクターと副ディレクターと共に撮影。

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