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【KAKERUインタビュー No.71】

マザールの狭い事務所にはお気に入りの絵をたくさん張っています。私も息子も絵を描くのは大好き。立派な作品とは言い難くても、味のある絵や微笑ましい作品はしまいこんでおけません。今回ご紹介するWonder Art Production(ワンダーアートプロダクション、以下WAPと略)はアートで幸せのうずまきを創ることを使命として、美術館や病院、学校や地域社会をステージに、アートの感動と潤い、ポジティブなエネルギーを届けているNPO団体です。代表の高橋雅子さんは美術館でお勤めされたキャリアを経て、この団体を立ち上げられました。入院している子どもたちを訪問してアートで元気づける「ホスピタルアート」という活動も11年にわたって推進されています。アーティストは個性的な方が多いのですが、高橋さんはかわいらしくて人を和ませる雰囲気をお持ちの方。ふんわりしたヘアスタイルや大振りなイヤリングがとってもキュートでお似合いでした。マザールも『ナラオ!ものがたりクッキング』でお料理×お話し会&アートのコラボ講座をスタートしたばかりですが、人を惹きつけてやまない活動の秘訣を伺ってみました。

高橋雅子【Masako Takahashi】

高橋雅子【Masako Takahashi】
Wonder Art Production/Hospital Art Lab代表 アートプロデューサー

米国州立Western Michigan University卒。 芸術と立体造形を学んだ後、現代美術ギャラリーを経て、美術館プティミュゼのシニアキュレーターに。シャガール展をはじめ数々の美術展や教育普及活動、美術館運営 に携わる。 美術館や博物館にとどまらず、医療や地域社会、子どもや学校など、より多くの人や現場にアートの潤いとエネルギーを届けたいという想いから、1999年当団体を設立し、現在に至る。
人々の笑顔見たさに活動している。海外のアートと文化を紹介する 展覧会オーガナイザーとしてアフリカ各国やポーランド、フィンランド、ギリシャ、 カナダなど訪れるかたわら、病院や子どもの活動で全国各地を訪れる日々を送る。 モットーは"Happy Spiral with Art"

 
 
WAPはNPO団体として11年目になられるということで長い期間に渡ってすごい。会社を立ち上げられるきっかけになったのは何でしょう?
 

それまでは美術館のキュレーターという仕事に就いておりました。勤務先のギャラリーがバブルがはじけて無くなってしまい、それでこれからどんな仕事をしようかと思った時に、美術館経営とは仕事の方向性が違うかな…と。それで、アートを通じて世の中へ元気を届けられるような活動をしていきたいと。
「ハッピードールプロジェクト」は病院で寝食している難病の子どもたちや、小児がんを患っている子どもたちへ向けた活動です。初年度は全国各地14病院をこのプロジェクトで周りました。
「Happy Doll Project in Hospital」のブックで紹介している人形はすべて病院の患者さんが作られた作品です。

 
拝見していると、もちろんすべての作品からパワーを感じるのですが、この一冊を作り上げているデザインとか編集とかクリエーティブすべてに愛情を感じます。上質な広告を見ているようです。伝えることがとても上手ですね。
 

ありがとうございます。最初から本を作るつもりではなくて、後になってせっかくだから何かに残そうと動いた企画でした。そもそも14カ所の病院を回るのに手一杯でしたが、作られていく人形の展示が、病院を回るごとに増えていったんですね。で、どこの病院で誰に作ってもらった作品かを分別するために写真を撮っておくことにした。結局それが素材となっています。病院の皆さんが作った人形を展示が終わってから返すことになっていたんですが、これだけの数の素晴らしい作品をそのままお返しして何ごともなかったようになるのが残念で(笑)。それで何か形に残したいと思って、ブックにしたんです。2週間で全部作り上げました。1週間でレイアウト組んで、作品の許諾もらって、1週間で印刷して。

 
すごい!チラシでもなかなかそんなスピードではいきません。
 

できあがって無料で皆さんにお配りして、こんな素敵な作品集になりましたよって手渡して。とっても喜んでいただけました。今年も巡回を続けていて、8月には愛知の小児保健医療総合センターへこの活動で訪問予定です。

 
本当に積み重ねてこられて素晴らしい活動です。
 

長期で入院しているお子さんは難病を患ってらしたり。ですから作品を返却する頃には、お亡くなりになっていることもあります。かわいい患者さんで、作品もとってもかわいかったので、ブックに掲載したいと思って病院にお尋ねしたところ「亡くなったばかりで、今はとても聞ける状態ではない」と。それでもどうしてもお母様とお話しがしたくてお聞きしてみたら、こんなに短い人生でも、こんなに楽しそうに作品づくりをしていたんだと感動してくださって。記念にと、数十冊もブックをもらってくださいました。

 
よかった。何かの形になっているものがあるとうれしいですもん。
 

今度新しく「ハッピーカラープロジェクト」という活動をスタートします。MAYA MAXXさんとのコラボで、3年前くらいから企画をあたためていましたが、9月15日に千葉県四街道の病院から始動します。小児科のお子さんと筋ジストロフィーのお子さんと。もっと奥のほうに重度の病状のお子さんがいらっしゃいますが、どこの病院も親御さんも、重度のお子さんを囲ってしまわれがちですね。あまりにも違うという理由で。ひっそりと隠して生きていきたいというご家族の思いがあったり。

 
いろいろな思いがあります。でもそこへ訪ねていかれて、企画を立ち上げられているのはすごいなぁと。どういうきっかけで病院を回られるように?
 

2002年頃から病院を回るプロジェクトを始めて、それまでは病院の奥のほうに患者さんがいるとは思わなかったのですが……。きっかけは94年頃に私の母が入院し手術をし介護のため通院しているうち、病室の中には壁と金属の器具だけで閉ざされていると感じました。一枚の絵も色彩もない場所で生活しなければならないのは辛いな、と。美術館の仕事を中断しながら、病院にいる母の介護をしていたものですから、たった一枚の絵でいいから、この部屋に飾れたらどんなに素晴らしいかと考えたのが始まりでした。母はその後元気になって、私も独立をしたので、思いきってその思いを形にしてみようと。

 
病院の扉を叩いて、すぐ歓迎してくれましたか?なかなかハードルが高そうですが。
 

最初からいろいろ提案をしたわけでなく、病院の空間を変えませんか?という一つのテーマで患者さんや先生と協働して行うことを始めて。病院では精神科の患者さんでなかなか社会復帰できない方がいらして、病院でもいろいろ復帰するための策を考えているのですが、再び病院へ戻ってこられる方もいて。アートを通じて社会復帰のための作業療法も行っています。

 
アメリカではこうした活動が根付いているものなんでしょうか?アートセラピーとか聞きますけれど。
 

そうですね。アートセラピーは同じアートを通じたアプローチでも、治療、医療の比重が大きい。効果効能も証明されていて、スペシャリストも配置されていたり、そうした意味では何十年も日本とアメリカでは差があります。

 
このドールプロジェクトの指導はどんなふうにされているのでしょう?
 

好きな布、好きな色を使ってつくりたいものを作ろうと。作りたいものが浮かばない子は、ここに人形のサンプルがあるから、作りたいと思うものを傍においてイメージを形にしていこうと。手を使って縫えない人は、あごにホッチキスを挟んでつないだり。形が画一化されていないから、かわいいんですよ。カタログのところどころに言葉も載せていますが、これは全部患者さんからの作品への感想です。

 
経営的にはどんな形で事業を展開されていらっしゃいますか?
 

病院のプロジェクトと、美術館の展覧会と、子どもを対象としたアート・環境の教育プログラムの3本柱です。収支だけを考えると厳しいプロジェクトもありますが、これらすべてを手掛けることで続けていけるし、意義深い活動が叶うのだと思っています。銀行から借金して、やっと返し終えてもまた借りなくてはならない状態も経験していますし(笑)、本当に資金不足ですが好きだからこそ続けていけるし、これからも続けていきます。

★9月の予定
「Happy Doll Project」 9/10(木) 金沢医科大学病院

「Happy Color Project」 9/15(火) 独立行政法人国立病院機構 下志津病院

以降の予定は、Wonder Art Production のWebサイトでチェックしてください。

 

どうもありがとうございました。
素晴らしい活動の数々は、一つひとつの小さな活動や取り組みを大切にしてきたからこそ、たくさんの方に支持され、今日まで続いていらっしゃるのだと感動しました。
折しも毎年8月には某TV局で24時間テレビが放送されるので、全国各地の病院でたくさんの子どもたちが病を克服しようと闘っていることを知る機会があります。

「募金」というささやかな貢献の仕方もあるかもしれませんが、高橋さんのように子どもたちと直接関わって活動していらっしゃる方をもっと紹介してもらうことで、善意の輪が広がっていくことを願っています。金銭的には、私たち一人ひとりにできることは限られているかもしれませんが、心で感じて行動できることはまだまだあるはずです。WAPのような社会的に意義深い団体とつながっていきたいですし、もっと多くの人に知っていただきたい!と感じました。

 

2007年8月、岡本太郎美術館で開催された「アマゾンの侍たちー人間・自然・芸術ー」の展示内容をまとめた書籍『アマゾンの侍たち×岡本太郎』の企画編集・発行元をWAPで行った。
インパクト溢れるメッセージは岡本太郎さんによる言葉。アマゾンの民族性となんとしっくり合うことか。
書籍のカバーにもなったアマゾンの先住民・カヤポ族。今の日本から失われがちな、彼らの誇り高き生き方が見えてくる。
ポーランドの絵本作家ヨゼフ・ウィルコンさんの動物彫刻の世界をWAPで書籍化。どのページもタイトル通り「ファンタスティック!」。
味のある写真は高橋さんが自らシャッターを切ったものも数多く掲載されている。
J・ウィルコンさんは「私がなぜ創造するかって?それはわたしにとって、なぜ生きているのか聞かれるようなもの。そう、私は何も創らずには生きられない」と語る真のクリエーター。
WAPで開催するイベントや展覧会のチラシは、思わず目をひくデザインと企画内容です。
2004年に開催したアフリカのストリートアート展のチラシ2点。アフリカの熱気、無邪気さ、生命力、原色、喧騒が感じられる展覧会を岡本太郎美術館で行った。
2007年はアーティストのMAYA MAXXさん、2009年はノッポさんを招いて、親子対象のイベントを開催し好評を博した。
Happy Doll Project in Hospital
各地で制作された人形を一冊にまとめた。眺めているだけで人の可能性を感じられ、幸せな気持ちで満たされます!
ドール作品集の一部。アーティストのような作品ばかりで目を奪われます。
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