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【KAKERUインタビュー No.73】

昨年「PTA再活用論」という新書を読み、「この本を書いた人に会って話を聞きたい!」と強く思い、コンタクトしたのがきっかけで連載中の「子供の習い事net」インタビューでご登場いただいた作家の川端裕人さん。常に「目の前にあること」をテーマに多くの作品を執筆されていらっしゃいます。エネルギッシュで頭脳明晰、かつイケメンなお父さんでもある川端さんに、軽々しく話しかけてはいけないような気がしていましたが、今回あるメールをきっかけに「ぜひKAKERUでご紹介させていただきたい」と依頼したところ、ご快諾いただいたうえ国際電話までいただいちゃいました。現在、お二人のお子さんと一緒にニュージーランド(以下NZと略)に半年間という限定期間つきで移住されています。なぜニュージーランドなのか。今という時期を選択された理由は?……同じ世代の子をもつ親にとって興味津々。NZの学校生活について伺ってみました。

川端裕人【Hiroto Kawabata】

川端裕人【Hiroto Kawabata】
作家
リヴァイアさん、日々のわざ
ウェブ連載「ニッポンをお休み!」(集英社文庫)

1964年兵庫県明石市生まれ。千葉県千葉市育ち。 東京大学教養学部卒業後、日本テレビに入社。科学技術庁(当時)などを経て、97年に退社。98年、「夏のロケット」で作家デビュー。著書に『竜とわれらの時代』『みんな一緒にバギーに乗って』『銀河のワールドカップ』『てのひらの中の宇宙』『おとうさんといっしょ』など多数。共著に『「パパ権」宣言!−お父さんだって子育てしたい』『バカ親、バカ教師にもほどがある』など。
家族は妻、小学6年長男、小学3年長女。現在はニュージーランドに暮らす。その様子をウェブでも連載中。

 
 
先日、川端さんから「ニッポンをお休み中!」というメールをいただいて。二人のお子さんは学校も現地校へ通わせて。NZはラグビーの国というイメージですが、なぜ今NZへ?
 

NZは取材や家族旅行で何度もきていて馴染みのある土地です。町も比較的平穏だし、自然豊か。いつか暮らしてみたいと思っていたんですが、小6の息子が早々と中学受験はしないと決めてくれたのもあって、今しかない!と思って来ました。この時期って、親のエゴが通せる最後になるかなと思いまして(笑)。

こちらは日本と季節が逆ですから今は冬です。ラグビーも有名ですけど、小学生レベルではサッカーも人気がありますよ。学校の校庭はうちの場合、芝生ではないんですが、柵もなしにそのまま公園につながっているので、体育は芝生の上です。冬でも見事に青々としています。

 
息子さん小6、娘さん小3ですよね。うちの子も小6ですけれど、この時期の半年間は結構大きい気がします。住んでいる町はどんなところですか?
 

子どもにとってはどの半年間も大きいですよ。ここは人口30〜40万の町です。スーパーマーケットにいくと、国産の野菜や肉もあるけれど、オーストラリアからの輸入品が多いですね。今は1ドルが70円以下の為替レートのせいもあって、日本円で考えると高くないです。

ワイン好きなんですが、10ドル、つまり700円以下で、日本の2000円台よりずっと充実してます。家は2LDKくらいの広さのものを借りていますが、家賃は1週間ごとの支払いで270ドル。円換算で1カ月でも7万円と少し。あくまで、日本円の感覚では暮らしやすいです。

 
うちの狭い事務所の家賃よりも安いです!NZで通われている現地校は日本とどんな点が違っていますか?
 

こちらは4学期制。2月に1年が始まります。ぼくの子どもたちは、日本で夏休みに入る直前の7月なかばにはじまる3学期から合流して、4学期の終わりまで通います。
学校生活は全体的にリラックスしていますね。授業中にジュースや水を飲んでもいいし、休み時間にはおやつを食べてもいい。コーヒー飲みながら授業をする先生もいます。学校は午後3時まで。給食はないので弁当持参ですけれど、親の負担感はないです。

パンを切ってハムを挟んだだけのサンドウィッチですとか、おもしろいのは生のにんじんをかじってる子がいたり。おやつも食べてますし、足りなければ帰宅後に家で補えばいいという発想みたいです。日本みたいにお弁当が親の愛情表現だとか、アイデンティティをかけた闘いになっていない(笑)。それと、子どもたちがびっくりしていたのは、掃除をしなくていいこと。専門スタッフが放課後に掃除機をかけています。

 
へぇ〜、すごくおもしろい!日本は給食にしても「残さず食べる」。掃除も生徒が「奉仕の精神を培う」ように教育されていますけれど。学校のお掃除という職業があることで雇用も生まれますね。日本は精神論が多いのかな。子どもたちの生活で言葉の壁はありませんか?
 

日本語を話すクラスメイトはいないので、片言の英語やらボディランゲージやらでなんとか乗り切っているみたいです。まだ年少の娘はわりと簡単に溶け込みましたが、高学年の息子はそれなりに苦労しているみたいです。たまたまやってきた教育実習生が、日本に住んでいたことがある人だったので、二人でクラスメイトに日本語を教えたりしているみたいですが。

 
習うより慣れろ、で何とかなるものですね。川端さんは「PTA再活用論」も執筆されていらっしゃるので、NZの学校事情も調べたりされていますか。日本とNZの教育システムの違いなども感じられているのでは?
 

教育ってすぐに結果が出るものではないから、本当にいろんな議論がありますよね。
日本は「ゆとり教育」からの揺り戻しの中、じゃあどうするのかという点で迷走しているように見えます。NZは良くも悪くも実験国家なので、独自の道を確信を持って疾走していますよ。

いわゆる先進国の中で、教育委員会的な組織がないのはたぶんここだけです。各公立校は、保護者が国と直接、契約を結んで、学校を運営するんです。公立校イコール「保護者立校」みたいなかんじです。校長も教員も保護者が雇って、それに対して国が予算をつけるというふうに。
日本と同じようにPTAもありますが、やりたい人が月1回の会合に出て先生方と話し合う程度。日本の実情を話すと、みんな目が点になってます。その反面、授業補助などで、保護者が参加するのは、日本よりもずっとさかんです。

例えば、冬のこの時期、高学年のクラスは日帰りでスキーに行くんですが、子どもの指導をしてくれる保護者を募ると、たった25人くらいしかいないクラスなのにお父さんたちが10人以上、「行きます」と手を挙げてくれるんです。おまけにそのお父さんたちのスキー場代は、自分持ち! 「子どものクラスがスキーに行くので、手伝いに行く」といえば会社を休める社会だし、ワークシェエアリングも当たり前なので、融通が利くんですよね。多少、金銭的な負担があっても、手を貸せるときには是非やりたいと思う人がそこそこいるわけなんですね。

 
びっくりしますね。日本の窮屈なPTAと比べると段違いです。PTAは本来、親が子どもたちのために自主的に関わる活動ですけれど、残念ながら私はまったくそうじゃなくなっている現実を目の当たりにしてきたのでNZのシステムは理想的に聞こえます。いつ頃からそうした学校の体制になったのでしょう?
 

1989年教育基本法が変わって、「明日の学校構想」というのが始まったんです。それ以前は、日本と似たような仕組みだったと聞いています。

今は、国が決める大まかなカリキュラムはありますが、検定教科書みたいなものはありません。できるだけ現場に近いところで意志決定ができるように、教育委員会を廃止して選挙で選ばれた保護者代表が学校を直接運営できるようになりました。

もちろん、保護者は素人ですから、支援団体も同時にできて活発に活動しています。本当にすごいと思うのは、実際にこのやりかたで、学校が運営できているということなんですよね。学校のガバナンスを保護者が行い、マネジメントは校長、という役割分担がすごくはっきりしています。

 
またNZの体験を本になさったり、予定はありますか?
 

具体的なことは帰国後になると思いますが、きっと書きます。今は異文化体験のまっただ中なので、とてもそれどころじゃないんですが。

 
楽しみです!ところで日本では8月30日に衆議院選挙があった結果、政権交代の大転機を迎えました。もちろん私も一票を投じました。教育を変えていくためには政治も変わっていく必要があると思いますが、川端さんは日本の政治や教育について、これからどうなっていくことを望んでいますか?
 

ちょっと真面目に答えると、教育の責任って一義的にだれにあるのだろう、ということを見定めたいというのが一番ですね。

我が国の憲法によれば、「普通教育」をほどこす義務は保護者にあって、でも、「義務教育」は国が保証することになっています。素直に読めば保護者に教育義務があるわけですが、国が提供する教育も「義務」とされる……。このあたりの関係が、ぼくはよく分からなくて(笑)。

ぼくとしては、保護者が教育の主体なのだというふうに自覚したい、と思っています。といいますか、 政治は、まずそこのところを尊重してほしい、と。

 
◆一筆御礼
どんな問いかけに対しても、適当に流さず誠実に回答してくださる川端さん。私が最初に手にした川端さんの著書は、たまたま「PTA再活用論」という本でしたが、作家として小説もたっくさんお書きになっていらっしゃいます。 これから読んでみたいおもしろそうなものばかり!こんなに博学で、自由奔放で、創造力豊かなお父さんに育てられたら、子どもたちも幸せだろうなぁ〜。おっしゃる通り 「保護者が教育の主体だ」とわかっちゃいますが、今目の前で繰り広げられている教育が一体何を意味しているものなのか。俯瞰で捉えてみると「???」続きでバカバカしくなっちゃうことも。せめて親が主体的に、過ごす環境を見極めていきたいです。川端さんがNZで今体験されていること、帰国されたらぜひお書きになってください。まっさきに読みたいです!


※隔週更新、集英社文庫でwebコラムを執筆中。川端さん親子が過ごすNZでのライフスタイルがよ〜くわかります。

川端さんのBlogより拝借した画像(1)。高台にあるお家の窓から見た、ある日の景色。雲の下に街があるように見えます。
川端さんのBlogより拝借した画像(2)。学校まで歩く途中に、馬が牧草を食む姿もあるそう。
川端さんのBlogより拝借した画像(3)。今、NZの季節は冬。空がとってもきれい。

◆川端裕人さんの近著
はじまりの歌をさがす旅
(角川文庫)
曾祖父の死をきっかけに、謎の旅に招待された隼人。必要な持ち物は、きみの声と歌の言葉。日本を飛び出した隼人は、身ひとつで砂漠に放り出されてしまう。想像を絶する過酷な旅、その先に待ち受けていたものは・・・・・。
今ここにいるぼくらは
(集英社文庫)
美しい自然が残る里山の近くで暮らす小学生・大窪博士。読書が何より好きな博士だったが、放課後や夏休みには近所の野山を駆け回る日々。ちょっと変わり者のクラスメイトのサンペイ君や妹と、UFOを見に行ったり、「オオカミ山」に住むオニババを訪ねたり、小さな冒険を重ねる。しかし、ある日なぜか博士はクラス中から無視され始めて…。懐かしい昭和の風景の中で語られる少年の爽快な成長物語。
おとうさんといっしょ
(新潮社文庫)
生後間もない綾のために、育児休暇を進んで取った前向きパパの洋介は、職場復帰した妻に代わり奮闘する毎日。食事づくりも洗濯も体当たりの洋介が、娘の夜泣きに根負けした日、妻に勝てない一線に気づいた。それはおっぱい。そこで考えた秘策とは…。驚きの育児小説「ふにゅう」をはじめ、子育てに真っ向からぶつかるいまどきパパを描いた共感と愛情あふれる作品集。
ニコチアナ
(角川文庫)
アメリカで煙の出ないシガレットを売り出そうとしそうとしていた二人のビジネスマン。売り込みのため、タバコの歴史を追うち、いつのまにかタバコが孕む神話に絡めとられ・・・。
みんな一緒にバギーに乗って
(光文社文庫)
田村竜太はこの春大学を卒業したばかりの保育士。区立桜川保育園の一歳児クラス・めだか組が彼の職場だ。先輩に気後れしがちな彼は、子どもたちから信頼を得られず、父母たちにも不安を抱かせていた。無力感を感じながらも、ひとりの子どもとの交流をきっかけにして竜太は成長していく。キラキラと輝く子どもたちの姿と、子育て現場での様々な問題点を描く連作集。
 
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