声だけ聞けば「何て博学な人だろう」と惹きこまれてしまうが、金髪と青い瞳のリンダさんは生粋のアメリカ人だ。本業は翻訳家として数多くの著名な日本映画の英訳を手がけ、日本の文化人や大物タレントが渡米すれば同時通訳者としてNYで活躍中。
言語能力以上に両国の文化や歴史にも詳しい彼女が、この秋封切りのドキュメンタリー映画「ANPO」の監督・プロデュースを手掛けた。3年前にプロデュースした「TOKKO-特攻-」もドキュメンタリー映画で、「特攻隊とは何だったのか。あの戦争は何だったのか」を丁寧に紐解き、生存している証言者たちへ取材した。宣教師の娘として幼い頃に来日し、日本の地方の公立小・中で教育を受けてきた。アメリカ人であるものの、日本人以上に日本のことを知る努力を惜しまない。 新作「ANPO」では、戦後に何があったのかをアーティストの作品を通して掘り下げている。
「一番伝えたかったのは、抵抗することの輝かしさ。中には実際の安保運動に参加していた人もいますが、多くは運動には関わらずに抵抗の証を芸術表現で葛藤している。きれいな花を描いている場合じゃないと感じた彼らが、社会風刺を込めた作品を描き続けた。私にとっては彼らこそ英雄です」
画壇にも無視され一枚も売れなかったが、今、この映画が「バーチャル美術館」となって埋もれてきた数々の名作を紹介。貧しくてキャンパスも使えずべニア板に描かれた絵に潜むエピソード、作者の想い、心の傷。時代を目撃したアーティストたちの、それぞれの「声」を伝えている。
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